今様つれづれ草

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失われた日本の地名

日本には歴史的な由緒ある地名や町名が、世界でも稀に見るほど数多くあります。

 

その由来は、その土地の地域性、伝承、地形や自然の特性を表し、その土地や町の原点を表しています。

 

東京のブランドとなっている“銀座”は、江戸時代に設立された銀貨幣鋳造所の「銀座役所」に由来します。元々、伏見(京都)や駿河(静岡県)に幕府の直轄の「銀座役所」が、1612年に江戸へ移したことがきっかけとなりました。駿府銀座、京都銀座は、現在「両替町」として名を残しています。

 

全国各地にある由緒ある町名は数多くあり、藍染職人が多く住んでいた紺屋町、材木を商う商家があった材木町、毎月10日に市が立った十日市場町、町内から富士山の雄姿が眺められたことに由来する富士見町、ほかにも鷹匠町、鍛冶屋町、馬喰町、人形町、箪笥町等など。

 

また、中央高速のサービスエリアとしておなじみの“談合坂”は諸説ありますが、戦国時代の武田氏と北条氏が「相談すること」の場を持ったことが由来とされているようです。まさに地名、町名は歴史を表しています。

 

平成の大合併で、由緒ある元の地名・町名が消滅するケースが多くあります。山梨県の南アルプス市、佐世保市のハウステンボス町などの、カタカナ表記の地名や、栃木県さくら市、群馬県のみどり市などの、ひらがな表記の地名・町名など、地域が育んできた歴史ある名称が消滅しています。

 

明治時代に行われた廃藩置県から始まった自治体の統廃合は、市町村合併を推進する政府の方針を背景に現代までくり返され、新しい地名が生まれる一方で歴史や伝統を残す由緒ある地名・町名が消滅しました。多くの歴史ある名称が消滅した理由は1962(昭和37)年に「住居表示に関する法律」の施行にあります。

 

それまで町名・字名と地番で表示されていた住所を整理し、町名、字名、街区符号、住居番号で簡潔に表記することを目的として施行されました。

 

開発にともない都市化が進むと土地の区画が変更され、田畑や山林に道路が建設され宅地になるなど、土地の並ぶ順序と地番が一致せず、境界が複雑になるケースが多くなったため、新たな地名を割り振った経緯があります。

 

私たちの住んでいる“ふるさとの古き”を訪ね、地名からその歴史的な背景を探り、失われた由緒ある地名・町名の復活を求めるなど、行政の「合理性」に異を唱えることも必要でしょう。